不必要なものを見極め削ぎ落とす為には
何が不必要であるかを見極める力が必要

ジャポニスムが誕生した1996年(20年前)は何をされていましたか?

20年前は18歳、ちょうど大学生になった時でした。大学の書道部と師・成瀬映山先生の元で書道三昧の生活をしていまして、師の元で書を学ぶ中、技術だけでは無い書道の魅力に改めて取り憑かれはじめた頃です。書に関する奥深さや怖さも肌で感じ始めていましたが、常に師匠からは「悩んでる暇があれば筆を持て!」と叱咤激励されていました。
それから20年、今も変わらずもがいてますが、今まで学んできた書の本質を大切にしながらも、これまで以上に内から湧き出るものを大切に、創ることを楽しみながら活動していきたいと思っています。

今回ジャポニスムのロゴを書かれてどうでしたか?

あるご縁から、ジャポニスムさんの20周年に際し、メインビジュアルとなる書を揮毫させていただきました。そのご縁というのは、数年前に共通の知り合いを通じてジャポニスムの営業の方と、展示会でお会いしたことがあるんです。なので、今回こういった記念となるお話を頂けてとても嬉しく思いました。デザイナーの脇さんとお会いしたのは初めてなので、まずは沢山のディスカッションを重ねました。これまで構築してきたブランドの持ち味と未来のジャポニスムへのイメージが、墨を用いて具現化出来たと思っています。 ジャポニスムの想いや展望が私の手を通して形となり、紙に落とし込めたと確信しています。とにかく今は一安心しています(笑)。

ディスカッションではデザイナー 脇とどのようなお話をされましたか?

制作に入る前に、脇さんから伺った「伝統を継承しながらも現代性のあるものを」という考え方は、日頃の私自身の制作活動とも共通する理念でした。意味のある文字か非文字にするか、または「眼鏡」そのものをイメージできるヴィジュアルにするか否かなど、漠然としている状態からまずは沢山のサンプルを提案させてもらいました。そこから徐々に絞っていくという作業は大変ではありましたが(笑)、私の中で納得のいった原稿をお見せしている中でも特にこのあたりが良いのでは?というものを脇さんも選択してくれていたことが、意思疎通ができていたんだなと思えて、とても嬉しかったです。

ロゴを書かれた際にどういう点にポイントを置きましたか?

ジャポニスムが描くイメージを具現化するため、まずは可能な限りたくさんの情報や資料に目を通しました。それに飽き足らず、見せていただいた沢山のフレームから、その美しくしなやかなラインを筆で何度も模写して、私の中にジャポニスムの眼鏡というものを落とし込みました。それから試作を重ね、ジャポニスムのフレームが持つ、細身でありながらも美しくしなやかで確固たる芯の強さを感じられる書を心掛け、完成させました。

既成概念に囚われないような作品をお書きになり、書の世界において文字通りジャポニスムを体現されている希水さんですが、ジャポニスムという言葉についてどのようなイメージを持たれていますか?

ジャポニスムという言葉は、19世紀末ヨーロッパの人達から見た日本趣味に由来しますよね。日本で生まれ育って生活する中で、当たり前にそばにありながらも、うっかり見落としている日本の素晴らしさをブルーノ・タウトやドナルド・キーンの著書や、日本で出会った欧米の方の私の作品に対するご意見などから再認識させてもらう事が多々あるんです。 作品を創る上では"日本人らしさ"なんて決して意識するものではなくて、日本で生きて日々起きる出来事に手間ひまを惜しまずに向き合うことで、自然と第三者が日本人らしい何かを感じられるものが産み出せるのではないかと思っています。

日本の好きなところはどんなところですか?

私の好きな詩の一つに江戸時代の禅僧、良寛の「白扇賛」という詩があります。

団扇描かざる意高きかな
僅かに丹青を著くれば 二に落ち来る
無一物の時 全体現る
華あり月あり 楼台あり

何かを明確に描いてしまうより描かない方がイメージが膨らむように、無一物の方が全体が見えるよと、良寛和尚がいつも語りかけくれてるような、この詩に日本らしさや禅の境地をとても感じます。 引き算の美学、捨てる事で得られる事や見える事を大切にしてきたこの国の文化が大好きで、身近なものだと、中国から入ってきた漢字を元に、独自の美学で変換してしまったひらがなも、その際たるもののような気がします。不必要なものを見極め削ぎ落とすためには、何が不必要であるかを見極める力が必要で、それには実践あるのみだと思っています。徹底した分析や努力、手間暇を惜しまないこと、慎み深くあることなどの背景にあるそうした事がとてもすばらしいと思います。

最後に、今後の活動について教えてください。

今回のジャポニスムさんとのお仕事のように、ご依頼を頂いて行う仕事を通して、これまで培ってきた技術や知識を社会のために活かしていけたらと思っています。それと並行して、作品制作では内なる魂の発露を形にする事を今まで以上に精力的に行っていきます。まずは自分自身が誰よりも書を楽しむ事で書の魅力を、しいては日本の素晴らしさを沢山の人が再認識するきっかけを発信していきたいと思います。

何度もミーティングを重ね完成した20周年の特別なロゴ。選定したものは現在裏打ち作業中であり、近日中に公開予定です。

中澤希水(書道家)  Kisui Nakazawa, Japanese Calligrapher
http://kisui-nakazawa.com/

書道界の芥川賞とも言われる“手島右卿賞”を2014年に受賞した、書道界を引っ張る作家。ご両親ともに書道家という環境に生まれた書道家のサラブレットで、奥様は女優の熊谷真実さん。40歳を前にし、墨絵・陶芸など余芸としてきた書以外の作品制作・発表も積極的に行っていく予定であり、動向から目が離せない。

中澤希水氏今後の展示予定
2016年10月3日〜8日【中澤希水書作展2016 】築地 茶の実倶楽部

2017年1月16日〜21日【中澤希水書作展2017】築地 茶の実倶楽部

2017年 春 【中澤希水展】浜松市 HIRANO ART GALLERY

2017年10月【野口悦士(陶)・中澤希水(書) 二人展】銀座三越